「日本人は不思議ですね。義務を守ることには必死ですが、権利はほとんど主張しないし、怒ることもないですね」とは友人のフランス人の言葉である。
「民主主義というのは自分から主張しないと何も動かないし、何も変わらないよ!」と言うのは、ある大物代議士の後援会長の言葉だ。
この二人の言葉から、現代の日本人は、いつの間にか、"正しい怒り"を忘れてしまったことに気づく。最近の「65歳まで再雇用義務化」の法改正に関する
関係者のコメントにもそれがうかがえる。
経団連の米倉弘昌会長「一律に65歳まで義務化するのではなく、働きたい人が働けるような場を作っていくことが大事だ」。住友化学や経団連に所属している大企業は実現可能かもしれない。大企業の多くはサラリーマン社長だ。自分の在任中は過激なトークは避けたいと皆思っている。しかし、それがオリンパスをはじめ、日本の大企業の昨今の大きな失態を招いている。
どうして、本音を言わないのだ。それに、日本企業の約99.7%を占める中小
企業はどうなってもいいのか。
これを反映するかの様に、会員に多くの中小企業を抱える日本商工会議所・岡村正会頭の発言には、背景に"正しい怒り"が見え隠れしている。
中小企業では、60歳以上の人に見合う職場を見つけるのは難しいと前置きし、「経営者と従業員との話し合いを通して、その辺は柔軟に対応していくことだと思う。したがって、義務化ということに対しては、する必要はないと思っています」(岡村正会頭)と、はっきり否定している。
中小企業は、義務化されたら、たまらない。できる企業とできない企業が出て、できない企業が、実態はまったく考慮されず、当局からは目をつけられ、マスコミも興味本位にたたくに決まっている。数とすれば、実行できないところが圧倒的に多い。誰も、日本国全体の「国益」を考えていないのだ。
一方、連合の古賀伸明会長は「年金給付までの空白部分は生活できない。希望すれば、誰でも65歳まで働ける環境が必要だ」と、この日本丸沈没と叫ばれるなかでも、自分たちの改善は一切語らずに、一方的な要求のたかり体質が治っていない。不治の病だ。
幹部が労働貴族である連合は、自分たちのたかり体質が維持できれば、後は大声で反対していればいいのだから気楽である。多くの組合員は例によって、権利を主張することに慣れていないからおとなしい。
最近は、この話題に関して、現役でない(現役の人は処分がこわくて投稿できない)企業の人事経験者の意見が新聞の投稿欄に載ることが多い。明らかに怒ってはいるが、とても紳士的で、冷静だ。
<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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